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一般社団法人日本かき氷協会
ナツヅタを使用した『あまづら』の復元
第一章 幻の甘味料『あまづら』とは
あまづら
1.『あまづら』とは

『あまづら』とは、ツタなどのツル性植物の樹液を煮詰めて作られる、古代日本の甘味料である。 その歴史は古く、8世紀(西暦701〜800)には薩摩や駿河の産物という記録が残っている。甘味料が貴重だった時代に重宝されており、非常に高価な物であったと想像され、平安時代(794〜1185)には高貴な身分の人間のみが食していたと思われる。

『延喜式』(927年成立。平安時代中期に編纂された律令の施行細則をまとめた法典で、当時の朝廷運営や社会を知る上で貴重な史料とされている)にも諸国からの貢進品として記載されており、東は越後から西は大宰府まで、多くの国で生産されていたと思われる。

かき氷の蜜として食べられていたという記述があるのは、『枕草子』(平安時代中期に中宮定子に仕えた女房、清少納言により執筆された随筆で1001年頃に完成)の『あてなるもの』(第四十二段)に、「削り氷(ひ)にあまづら入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる。」という記述があり、これがかき氷の最古の記録と言われている。

かき氷の他には、山芋を『あまづら』で煮た「芋粥」や、「団喜・粉熟・椿餅」といった唐菓子にも用いられ、古代日本の甘味に欠かせない甘味料であったと思われる。

一時は全国で作られ、国が税として徴収もしていたが、室町時代以降、海外からの砂糖の輸入が増加するにつれて『あまづら』の需要は減少。江戸時代にはその製法が不明となってしまい、「幻の甘味料」になってしまった。

『あまづら』が消えてしまった後、江戸時代の研究者達によって断続的に原料や製法に関する研究が行われているが、はっきりとした原料や採取方法は解明できなかったという。

2.『あまづら』の原料を探る共同実験

2016年、立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構の助教であった神松(こうまつ)幸弘氏は、ひょんなことから「芥川作品に出てくる『芋粥』に使う甘葛(あまづら)とは、どんなものだろう」と興味を持った。

古典籍を読み込み、自力で読めない崩し字は、国文学研究資料館教授の入口敦志氏に協力を仰ぎ、失われた古代の味を探る文理融合の共同研究が始まった。 神松氏は、これまで常識となっていた「『あまづら』の原料はツタである」という定説に縛られず、仮説として約30種類の植物を挙げて、ひとつづつその可能性を潰していった。。 また、当時『あまづら』が使用されていた地域を踏まえた上で2017年〜2019年の間、奈良・和歌山を中心に九州から北海道まで広範囲で樹液の採取を行った。

「甘みがありその主成分が糖である」「粘性がある」といった古文書の描写にある『あまづら』の特徴と、採取した樹液を煮詰めて精査した結果、『あまづら』の原料となり得ると判断された樹液は5種類。定説であるツタ(ナツヅタ)を含め、ノブドウ、ヤマブドウ、サンカクヅル、アマヅルの5つの植物、どれも日本に古来から生育するブドウ科の植物で、『あまづら』の特性を備える甘味料を作ることができた。日本に自生するブドウ科樹木は他にもいくつかあり、それらも概ね『あまづら』の特性を備えるものと考えられる。 中でも、ツタ(ナツヅタ)は、ショ糖の占める割合が高く、果糖・ブドウ糖の割合が低い。 加熱し濃縮したものの試食では、最も雑味や匂いが少なく、強い甘味とキレの良さがあり、『あまづら』を食べた先人の感想と近い。

「甘みや香りから判断すると、ツタは上流貴族の用いた甘味料として最も相応しいと思われた」(『古代の甘味(甘葛)の原料に関する考察』神松幸弘・入口敦志著)

ただし神松氏は、一連の調査と考察から「延喜式には甘葛が全国から集められたとあるが、広範囲から、ツタのみで安定した量を確保したかは疑問が残る。複数の種類のつる性植物から採取されたのではないか」と考え、あまづらは、『砂糖』や『片栗粉』などと同様に食品の名称であり、単一の植物だけを原料とするものではなく複数の原料によって生産されていた可能性も充分考えられる、という見方を示している。 2019年秋に、神松・入口両氏は研究報告を行い、その後も共同研究を継続している。

  • 神松幸弘
  • 神松(こうまつ)幸弘氏
    (環境省 九州環境局 環境対策課)
  • 入口敦志
  • 入口敦志氏
    (国文学研究資料館教授)
3.『削り氷にあまつら入れて』の再現企画

一般日本かき氷協会(2015年)は、以前から再現を切望していた「『あまづら』の削り氷」の再現のための樹液採取を、神松・入口両氏に協力のもと2025年2月に開始することになった。 今回は、神松・入口両氏の研究結果、最も「『あまづら』の味にふさわしい」と評価のあったナツヅタの採取を行うこととした。 続いて、日本かき氷協会のおける採取の記録とあまづらの再現の様子を記述する。

第二章 あまづら復元の記録
第一節 ナツヅタ樹液採取の記録

今回の採取においては、神松氏の研究の結果より、一番『あまづら』の原料の可能性が高いナツヅタからの採取を試みた。

ナツヅタの樹液は、葉が全て落ちて、内部に水分を蓄える冬の間が最適とされる。採取に適した期間は2月〜3月。
この時期は、春に芽を出して葉を育てるための養分を内部に蓄えているので、高い糖度の樹液を摂ることができる。
春になり芽吹く頃には養分は全て葉の育成に使われるようになるため、甘い樹液は採取できなくなってしまう。
目安として、ナツヅタの芽の先端が赤くなると、糖度の高い樹液は取れないという。

神松・入口(未発表)によると、樹液が取れる時間帯は午前中〜午後の早い時間が望ましい。
朝日がのぼり、地表が温まってきた時間(おおよそ9時ごろから12時前後まで)が一番樹液が取れる時間だと思われる。

【採取方法】

ナツヅタは、従来太い木や建物の壁面について成長する。
特に建物についたツタは、大きく広がって葉っぱをつけて多くの養分を溜め込むことが出来るので採取がしやすい。
しかし建物を傷める(また景観が悪くなる)ため、駆除される傾向にあり、なかなか大きく育ったツタを見つけることが難しい。

今まで『あまづら』再現のために行われていた採取法は、ツタを切り取って掃除し、切断面にビニール袋等をつけて振り回す方法が多かった。
しかし切断してしまうと、当該のツタは再生することが出来ず枯れてしまうため、今回はツタをきらずに樹液が採取できる方法で採取を行うこととした。
ツタを切り取らず、小さな穴を開けて樹液を吸い出す手法で採取すれば、ツタは枯れることなく、翌年も同様に樹液を採取することができる。(時間を空ければ、同年の採取も可能)
小人数で効率的に採取が出来、環境も保全できるが、事前に専用の手動ドリル・手動ポンプの準備が必要となる。

  • 【樹液採取の手順】
  • ① 直径10㎝前後のツタを探し、手動ドリルで穴を開ける。
  • ② 水脈は、ツタの表皮の下あたりに通っているのであまり深く穴を開ける必要はない。ツタが細い場合は貫通させないように注意する。
    採取写真
  • ③ チューブを差し込み、手動ポンプで樹液を吸い上あげる。樹液がで始めたら、同じ圧力を維持し、樹液を吸い上げる。小さな穴は、空けてもやがて塞がり、ツタを殺してしまうことはない。
    ツタに穴を開け、管を差し込みポンプで樹液を吸い取る方法を、神松先生の名前を取って『神松式採取法』と呼ぶこととする
    採取写真

備考
ツタが枯れている場合は樹液は出ない。
⚫︎ツタが木や建物の壁から剥がれて垂れ下がっている
⚫︎キノコが生えている
⚫︎表皮が著しく剥がれたり傷んだりしている
このような場合は、枯れていることが多い。
気温が低すぎる場合も水脈が縮んでしまって樹液が取れない

採取データ

【採取時の記録】

1本目、2本目のナツヅタは、ドリルで穴を開けて中が生木であることが確認できたが、樹液は採取できず。
3本目の穴を根っこ付近に開けたところ、少し樹液は出たが、すぐに出なくなってしまった。
樹液が出切ってスカスカになると、木の中に空気が入ってくるため圧が上がらなくなる。
初めて取れた樹液を舐めると、明らかな甘さを感じた。
想像していた青臭さや泥臭さは一切なく、少し薄い砂糖水のような甘さだった。

採取データ

【採取時の記録】

場所を変えて採取を試みたが、ほとんど樹液は出なかった
夏は毎年多くの葉をつけるとのことなので、明らかに木は生きていて、採取日に採取できなかったのは気温が低いことが原因かと思われた。
今後ツタを見守り、再度採取をさせてもらうお願いをして終了した

採取データ

【採取の記録】

地表から50cmくらいのところに穴を開け採取を開始したが、
翌日の10時頃を目安に再度採取をする予定にして採取を終了した。

採取データ

【採取の記録】

1本目、穴を開けてチューブを刺すがポンプ圧が上がらない。
以下5回トライしたが採取はできなかった。
備考・・公園では樹液の採取が出来なかった。
ツタは木や建物を傷める為、通常は排除されてしまう。
公園など管理されている場所では、根元を切ってツタを剥がす処理をしているところが多い。
切り取られていないものを選んで採取したが、全く樹液が出る様子がなく、何らかの駆除の処理をされているか、当日の気温の低さに影響されているものか、後日確認をすることにした。

【第一回の採取を終えて】

甘い樹液がでるのは冬の間しかない。
葉が落ちたナツヅタは体の中にでんぷんを貯めこむ。やがて自分の酵素で澱粉を分解し、果糖とブドウ糖が合わさってショ糖となる。この樹液がアマヅラの原料となる。

2月から3月にかけて、ツタはその内部に芽吹く時に使う為の栄養を溜め込んでいる。その時期であれば、糖度の高い・甘い樹液を採取することができる。
ナツヅタによく似た「キヅタ」は常緑樹で、常緑樹は年中葉っぱをつけているので糖を出さない。このツタからは、甘い樹液は採取できない。

樹液は3センチ以上あれば、ドリルを使って穴を開けることができ、採取は可能だが取れる樹液は少ない。
太いツタの方が採取には望ましく、その太さまで育つには長い年月がかかる。
ツタは切り取ってしまうと、そこから生き返ることはあまりなく、切り取った上の部分はもちろん、土から生えている部分もほとんどの場合死んでしまう。

今回採取の途中で、切り取り式の樹液採取跡を発見したが、ツタは枯れて干からび、キノコが生えていた。
ツタを生かしながら樹液を摂る『神松式採取法』を続け、採取後のツタの成長を一年を通して見守る事を目標としたい。

今回の採取は時期的には最適であったが、気温が上がらず樹液があまり取れなかった。ツタの見分け方や樹液の取り方の指導をしてくれる神松先生が都内に滞在できる期間が2日しかなく、運悪く2日とも雪となってしまったが、しっかりと指導を受けることができた。この後先生たち以外のメンバーで、春までの間『あまづら』を集めてゆく事となる。

葉が落ちているこの時期は、ツタが生きているか死んでいるか見分けるのが難しいので、夏の間に葉が茂っているツタを見つけて、印をつけておくなどの準備について検討したい。

採取写真
  • 採取・小池隆介(日本かき氷教会)
  • 採取・山田健太郎(日本かき氷教会)
  • 採取・市場ゆりこ(日本かき氷教会)
  • 記録係・山我佳央
  • 撮影・宮本雅通
  • 指導・協力
  • 神松幸弘先生
第2節 あまづら煎を作る
【「あまづら」の作り方】
採取写真

以前に記載した通り、「あまづら」の原料や作り方に関しては、確実な資料は今のところ見つかってはいない。
どの程度煮詰めたかの記述もないが、税として地方から中央へと運んだことを考えると、長期保存をするために濃く煮詰めて保存したことは間違い無いと思われる。

その濃度は、食品中の糖度が65°以上になると、水分活性が急激に低下して微生物が繁殖しにくくなるため、糖度65°以上であることは間違いない。
また『薫集類抄』や『類聚雑要抄」に、「あまづら」を解説した文章の中に「糸を引く」という記述があるため、ハチミツのように粘性が出るまでに詰めていた可能性が高い。
今回の目標は糖度70度以上。常温でも腐らない糖度まで上げることを目指す。
【「あまづら」の作り方・手順】

ナツヅタの樹液638g(糖度14.3度)の糖度を上げるため、鍋に入れて煮詰める。 果糖が非常に焦げやすいため、最初強火で煮たったら弱火にし、鍋肌を火から離したり近づけたりしながら慎重に煮詰めてゆく。 樹液の糖度が14.3度なので、糖度80度にするために煮詰めるとなると、出来上がる「あまづら」は約100gになる予定だ。 樹液が煮詰まってゆくと、香ばしい香りが広がる。 砂糖をちょっとだけ焦がしたような、べっこう飴のような香りがする。

  • ① 樹液は木屑やゴミを取るためにこしておく。
    採取写真
  • ② 糖度は14.3度。冬は糖度が高いが春になるにつれ糖度は落ちてくる。
    採取写真
  • ③ 糖度14.3度を煮詰めて、糖度60度以上にする。
    採取写真
  • ④ 冷めるととろみがでて糸を引く。とても焦げやすいので、煮立ってきたら鍋を火から離すようにして、余熱で煮詰めていく。
    採取写真
  • ⑤ 褐色に色付き美しい「あまづら」
    採取写真

かき氷にかける際に高い糖度のままで冷たい氷にかけると、飴のように固まってしまい食べにくいため、適度な濃度まで薄めてかき氷にかけたり、甘味を作っていたと想像できる。 今回撮影時には、糖度を50度まで下げて実食した。 糖度50度は、むかしながらのかき氷蜜・みぞれ(糖蜜)と同じ糖度である。 まさか平安時代にこのような甘いかき氷を食べられたとは・・・ 今のかき氷の甘さと変わらない味におどろいた。

採取写真
「あまづら」の再現を終えて

2月7日の初回の採取から約2ヶ月。2026年の採取は4月10日をもって採取を終了した。
2ヶ月間、延べ20日の採取の成果はコップにやっと一杯の「あまづら」。
驚くほどの時間をかけて樹液を採取し、丁寧に煮詰め、長い時間をかけて献上された「あまづら」。その貴重さは、体験したからこそわかる、想像を意はるかに超えるものであった。
そしてその味も、まさに「あてなるもの」。これ以上の言葉は見当たらない。

採取後、4ヶ月を経過して、採取場所を確認に行くとナツヅタが青々と生い茂っていた。 「採取は小さな穴を開けて行い、ツタにはダメージを与えません。」 ツタ樹液の採取の許可採りを行う際に、何度も繰り返した文言だが、今はっきりとその結果が目の前にある。
この後も経過観察をしていく予定だが、来年度も同じナツヅタから「あまづら」を作ることができそうだ。
採取写真
  • 写真:宮本雅通
  • 文:市場ゆりこ